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「なんだ、お前目が見えるようになったのか」 つまらない奴だなと、C.C.は本当につまらなそうな顔で言った。 その上わざとらしくため息まで吐くものだから、苛立ち思わず睨みつけた。久しぶりに見る彼女は以前となにも変わっておらず、ルルーシュのことは気にするが、こちらの感情になど興味はないと感情をけし見つめてきた。 先ほど地下に駆け下りてきたのはジェレミアとアーニャで、スザクを連れて逃げるなら、最終的な目的地は祖国である日本の可能性が高いと考え、密入国に近い形で東京まで来ていたのだ。そこで、無事新宿で追手を撒いて自由になったC.C.がアーニャのブログの内容を思い出し、二人が東京にいる可能性に気づき、危険を承知で連絡を入れた。いつでも動けるようにと車も用意していたジェレミアに回収されたC.C.は二人の足ならば、おそらくはこの辺だろうと当たりをつけ、発信機の反応を探した。スザクが迷子になった時のためにと急遽用意したものだから、性能が悪く電波が弱いためかなり近づかないと反応せず、それでもどうにか地下にいることを突き止め、ジェレミアとアーニャが駆けつけた時には、すでに敵は全員沈められ、スザクの視力は戻っていた。 「おかげさまで、両目ともはっきりと見えるよ」 「どうやって戻ったんだ?自力で治るようなものではないだろう」 手術をすれば視力が戻る可能性が僅かにあると言っていたが、それは希望的観測にすぎず、実際には回復が見込めない状態だった。角膜の損傷だけではなく、爆発によって飛散した破片や仮面の破片が眼球内に入り込んだため摘出手術も行っている。 感染症を起こさず、眼球の摘出をしないで済んだことが奇跡なほど酷かったのだ。 だから自力で回復など不可能、治ることなどありえない。 だが、そのありえない奇跡が起きたのだ。 その証拠に、人ならざるものを感じられるC.C.の目には、スザクの両目から強いギアスの力を感じていた。 スザクは、自分の両目が回復したのは『生きろ』のギアスが、スザクを生かすためには視力が必要だと判断し、普通の人間ではありえないような自然治癒を行なったのだと結論づけていた。回復したのが地下という暗い場所だったからよかったが、これが日の当たる場所だったら、眩しさから目を開けていられなかっただろう。 これは『生きろ』というギアスと、地下という薄暗い空間、そして、騎士としての誇りと守るべき主という幾つもの要素が重なり合った結果生まれた奇跡。 だが、それをC.C.に教えるつもりはなかった。 「そんなことよりC.C.、邪魔だから場所変わってくれるかな?」 今三人がいるのは車の後部座席で、C.C.は真ん中に座っていた。 右にスザク。 左に。 「断る」 C.C.は即答した。 絶対に移動しないぞと、足まで組んで見せる。 「なんでだよ。いいから君、邪魔。ルルーシュ、いい加減説明しろ!」 すでにマスクもかつらも奪われており、女装したままのルルーシュは顔を窓の方に向けたまま、スザクとは視線すら合わそうとしなかった。 むしろ完全無視状態になっている。 こうなったらなかなか口は割らないだろう。 とはいえ、C.C.から説明は聞きたくない。 ムスリとした表情で、スザクは前を見た。 「・・・アーニャ、君は知ってたんだね、ルルーシュのこと」 助手席に座るアーニャは、携帯をいじりながら「知ってた」と言った。 「ルルーシュ、家ではかつらも付けてなかった、マスクだけ。女装もしてない」 運転しているジェレミアもどこかバツの悪そうな表情を浮かべ、バックミラー越しにスザクを伺ったが、視線が合うとすぐ目を逸した。主の命令とは言え、悪いことをしたと思っているのだろう。あのオレンジ農園に居た時、ジェレミアもアーニャも、ルルーシュ相手に咲世子と呼んでいたのだから。 身長も体重も性別さえ違うルルーシュと咲世子。 足音や歩幅のイメージが合うはずもなく、違和感があるのは当たり前だったが、そこでスザクが気づけるはずもなく、咲世子の声で話し、咲世子のフリをして絶対に接触しない、接触させないようにし、スザクに咲世子なのだと認識させていたのだ。 「だ、だが枢木。我々もルルーシュ様が生きておられることを知ったのは、貴公が失明した後、C.C.と共に屋敷に来てからだ」 「・・・そうなの、ルルーシュ?」 確認するように聞いてみるが、反応無し。 ・・・後でおぼえてろよと、スザクは睨みつけた。 「ルルーシュが来た日、ジェレミア泣いてすごかった。私も泣いた」 スザクは部屋でふさぎ込んでいたから気づかなかっただけで、大騒ぎだったのだ。 「・・・その時に教えてよ」 「駄目って言われた」 だから教えなかったとアーニャは答えた。 「・・・で、今のゼロって誰?」 「咲世子に決まっているだろう?」 他に誰がいるんだと、C.C.は呆れたように言った。 ゼロの代役など、スザクかC.C.か咲世子にしか出来ない。 他の者では身体能力・性格・体型に問題があり、ゼロレクイエムを知らないものを代役とした時のリスクが計り知れないため、現状ではこの3人以外ゼロになれないのだ。 そのうち二人がここにいるのだから、消去法でアレは咲世子だろうと言うのだが、ずっと咲世子がここにいると思っていたのだから、ゼロが咲世子だと気づくはずはない。解ってて言ってるだろうと睨むのだが、C.C.は馬鹿にするように笑うだけだった。 その後、神根島経由でブリタニアに戻り、シュナイゼルと連絡を取り無事咲世子と交代し、この馬鹿騒ぎを終わらせた。 ゼロの中身がスザクに戻ると、ナナリーは心の底から安堵したように笑い、それだけで周囲は本物が戻ったと理解した。その後秘密裏に行われた皇神楽耶との通信で、あちらもスザクが戻ったことを知り、ゼロ探索を早々に取りやめた。 未だにゼロを探していた者たちも、やはり失明はデマか、あるいは手術で治したのだと結論を出し事態は収束していった。だが、私欲に駆られゼロを探した者達はシュナイゼルの手で全て調べられており、それらの国と関係者たちは秘密裏に処罰を受けた。 ナナリーと神楽耶、カレンも処罰を受け、危うくその地位を剥奪されるところだった。 全てのカタがつき、世界は平穏を取り戻したかに見えたが、ゼロの周りではまだ何も問題は解決していなかった。 「だから、知らないと言っているだろう。しつこい男だな」 ジェレミアのオレンジ農園に居座っていたC.C.は、扉の前に立ち不愉快げに言った。 「じゃあそこどいて。ルルーシュに聞くから」 「あいつは今休んでいる。出直してこい」 「寝てるの?いまお昼だよ?流石に寝すぎだから起こさなきゃね。ほら、どいてよ」 「駄目だと言ってるだろう・・・あいつはもう、お前とは話さない」 諦めたように言った言葉には、どこか呆れも含んでいた。 「なんで?」 違和感を感じながらも、スザクは眉を寄せ尋ねた。 「お前だけじゃない、ジェレミアとアーニャとも話はしない。これがナナリーでも同じだ」 そういえばルルーシュが二人と話している声を聞いていないことに気づいた。 寧ろ今までルルーシュ自身の声を聞いていない。 記憶にある最後の声は、彼を殺したあの日の声だった。 「だから、なんで!」 忘れたかったあの悪夢を思い出し、スザクは顔を歪めた。 「不本意とはいえ、あいつは生き返ってしまった。私と同じ人外としてな」 あの日ルルーシュは埋葬される前に息を吹き返した。 その体に、コードの文様を刻んで。 おそらくは、シャルルのコードが移動したのだとC.C.は言った。 未来を否定し過去を望めば、神がコードと共にこの身を滅ぼしてくれると考えていたが、結局、誰かが代わりにこの呪いを受け継ぐことになるのだと。 誰かにこの呪いを押し付けるなら、今と何も変わりはしない。 「その話は聞いたよ。それと話をしないことは関係ないだろ」 「あいつは、人間であった頃の関係者と、もう関わらないと決めたんだよ」 同種の私以外とはな。 本当は、確実に全員が寿命を終えるまで100年ほど息を潜めているはずだった。 だが、あの事件が起きた。 爆破テロでゼロが被害にあったと。 ギアスを掛けた医者が治療にあたったはずだと、確認をとってみれば両目とも失明で回復の見込みは無いという。 しばらく悩んだルルーシュは、スザクはもう穏やかに暮らすべきだと神が判断したのだと考えることにし、C.C.を使いジェレミアと連絡を取り、スザクを引き取れないか打診した所、快く引き受けてくれたのだが、その後のスザクの精神状態が悪く、アーニャからの報告をC.C.経由で聞いていたルルーシュは耐え切れなくなり、結局ああいう形でスザクの世話を始めたのだ。 あくまでも咲世子の代役。 だから、ルルーシュは咲世子を演じる以外での会話は、ジェレミアとアーニャ相手にもしなかった。そこは徹底していたため、ジェレミアもアーニャも悲しく思ったが、それ以上にルルーシュの生存と、共に暮らせることを喜び、協力をしていた。 それが終わった今、再び二人で姿を消そうとしたのだが、ジェレミアに泣いて引き止められ、あの鉄面皮のアーニャまで感情を露わにして泣き出してしまい、別れるに別れられなくなり、暫くの間農園にいることになった。スザクの「逃げても絶対見つけるから。ゼロを犠牲にしてでもね」という言葉に、スザクは追い詰められれば何をするかわからないぞとC.C.が言ったのも決め手だろう。 だが、ルルーシュは部屋に引きこもり出てこなくなってしまった。 話をしたっくても出来ない、姿を見たくても見られない。 強行突破も考えたが、その時は本気で姿を消し、二度と会えなくなる気がした。 扉一枚隔てた向こうにいるのに、話すことも出来ない。 「・・・C.C.、君は死にたいんだったよね?」 「・・・なんだ急に」 「同種の君と話すなら、僕も同種になれば解決するよね?」 ゼロは仮面の英雄。 不老不死になってもばれないし一石二鳥。 何より初代と二代目が不老不死になれば、世界も安泰だ。 「・・・やらんぞ」 「なんで!?」 「どうして驚く?私の1番の願いは死ぬことではなく、愛されること。ルルーシュがいれば、無条件で愛情を注いでくれるからな、私はそれで満足している」 今まではナナリーに、スザクに、友人たちに、世界に注いでいた愛情。 それらをすべて断った以上、行き場のない愛情はC.C.に注がれるのだ。物心地よさを知れば、手放したいとは思わなくなったと拒否を示したC.C.に、スザクはあからさまに不愉快そうな顔を向けた後、扉に向けて叫んだ。 「ルルーシュ、僕、C.C.からコードを譲り受けることになったから!」 「は!?」 C.C.の驚きの声の後、がたりと室内でも何か音がした。 驚きのあまり何か落としたのかもしれない。 「やらんといっただろう!」 「じゃあ、他のコードがどこにあるか教えて。二つだけじゃないんだよね?」 「知るはずないだろう」 知っていても教えるつもりはない。 「じゃあ、やっぱり君から貰わなきゃだめかな?」 ゼロの権限をフル活用し、コードは探すが最悪C.C.から奪わないと。 楽しげに言う男を見て、ああこれは負けたなとC.C.は悟った。 ろくでもない計画を立て、ある意味世界最高の権力と武力を誇っているスザクが暴走を始める姿が目に浮かぶ。 そして、根比べにルルーシュが負ける姿もあっさり浮かんだ。 今は意地になって引きこもっているが、スザクが動いたら勝ち目はない。 ルルーシュはユーフェミアとナナリーとスザクには負けるのだから。 さて、どうしたものか。 反応がなくてもめげること無く扉に向かって話す男を見ながら、C.C.は長い長い溜息を吐いた。 *** ナナリーとカグヤがゼロを探していたのはスザクを守るためと、ルルーシュが残した仮面の英雄ゼロの奇跡を消さないため。 各国代表やそれ以外の人が動いたのは、黒の騎士団のCEOであり、超合集国にも大きな発言権を持ち、英雄として世界から賞賛されているゼロの地位と権限が欲しいからです。 *** 目隠し訓練の話はC.C.が咲世子から聞いて、ルルーシュへ。 「そんなこと可能なのか?いや、不可能だとしても、これを切っ掛けにできれば・・・いやまて、あいつの運動神経と反射神経を持ってすれば、可能なんじゃないか!?」 と、だんだんノリノリになった結果のピコハン。 |